私信2 この全身は、俺の誇りだ2023夏

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妹の誕生日になったから書きたくなった。

母へ

あなたから生まれて良かった。

正直、嫌いでした。

すぐ甲高い声を出し、すぐうろちょろうろちょろ動き回り、すぐ決めつけて。

嫌いだった。

やれ服の素材、やれこれを食べろこれを飲め、やれこれをするな、やれこれをしろ。

身体の発達を気にしてやたら病院に身体をさらされるのが嫌だった。

最後までやれと、勉強、運動、果てはゲームまで。

思春期に反抗したら涙を流してお祝いして。

恥ずかしくて窮屈だった。

とっとと家を出たかった。

私の今のところ人生で1番の挫折を味わった時。

あなたに呼ばれた。

実家に行った。

縁を切られると思った。

せいせいすると思った。

あなたは私を誇りだと言った。

どうあっても味方だった。

服の素材は、私が小さい時にやたら特定の素材以外嫌がっていたからだった。

食材は、私のアレルギーのためだった。

食の楽しみを教えてくれた。

すぐ覚えのない怪我、病気、しょっちゅう入院する私へのアドバイスだった。

自分の身体でもない別個体の私に、本気だからいちいち一喜一憂していた。

遊びすら徹底的に、私が全身でのびのびと感じられ、狭い興味を増やすためだった。

周囲の友達が親を否定し出し、保健体育の授業で聞いて、調べてみたら反抗期は成長に必要だと教わった。

声を裏返しながら「クソババア」と言ったら喜んだ。

その後、せいいっぱいの反抗でマヨネーズを冷凍庫に入れたら頭をなぜられた。

逐一私の一挙手一投足をあしらわず、全力で向かってきた。

不器用な母親だと思う。

あなたを誇りに思う。

父へ

あなたから生まれて良かった。

正直、嫌いでした。

母親の熱血指導に怯える私を、軽くからかうように笑った。

いつも個人行動ばかり。

テキトーなことばかり言う。

私はいつもどこかで勝手に傷を作って帰ってくる。

それと同じだろうと思うと思って、隠した傷があった。

あなたは見逃さなかった。

見たことのない真剣な目だった。

子どもの戯言だと聞き流さなかった。

周囲の大人の冷静で客観的な視点や意見を一切無視した。

私の言葉と傷だけを信じてくれた。

私が自業自得で大怪我する瞬間、躊躇わずあなたが入院して、私はピンピンした。

普段は父親というよりも、アホでしょーもない友達みたいな父親。

風邪ひくなよ、風呂入れよ、よく眠れよ。

妹へ

目に入れても痛くない。

いやごめんやっぱり痛いから入らないで。

好きだし嫉妬していた。

うちの畑で実った果実のような瑞々しく、太陽のように明るい顔。

全く記憶にないけれど、私が起きている間は私があなたの母親だったらしい。

なんで遠方に行っちゃうんよ。

私以上にすぐどこかへ行く。

なんで私以外の男と付き合うんよ。

彼氏への理不尽な嫉妬。

不意に漢字の読み方をたずねて本の超拡大写真を送ってくる。

私は辞書か。

習い事に迎えに行くと、周囲のママパパからは父親扱いされ、兄だと言っても冗談と言われた。

若く可愛くちっちゃく、私の若さ成分は母親のお腹の中に置いてきて、あなたが持って出てきた。

引っ込み思案で恥ずかしがり屋なのに、ここぞで自分で前に出る。

まあたまにはこっちへおいで。

妹2へ

いまだにおばーちゃんが、言葉を覚えたての頃に言っていた可愛らしい言い間違えを思い出しては笑ってる。

にっこにこ。

ふっさふさ。

の写真が今でも記憶に新しい。

色んな経験して、おすそわけのお菓子が美味しい。

最近じゃあ車も乗り回してるらしい。

たくましい。

デパートの物産展にもお呼ばれして。

また手作りのおすそわけが食べたい。

こっそり応援してる。

また帰省のタイミングがあったら焼肉でもしよう。

デザートよろしく。

祖母へ

なーんでこんなに孫のことばかり言うんだろう。するんだろう。

何がそんなに孫のことで楽しいんだろう。

まったくわからなかった。

そして母親以上に口うるさかった。

朝くらい好きに寝させてくれ、漫画くらい読み耽らせてくれ、外になんて行きたくない。

早朝から夕方までせっせと畑。

祖父の仕事の事務作業。

黙々と毎日私の弁当。

機械仕掛けの何かかと思うくらい規則的に動き続けていた。

お弁当のごはんがみっちりしすぎて、箸が折れたことがあった。

あの体のどこにそんなプレスぢからがあるんだろうと驚いた。

小さい入れ物に、はちきれる愛情。

温泉、一緒にいこう。

もう、私は男風呂しか入れないけれど。

祖父へ

孫にだけにこにこ。

周囲には常に怒鳴る。

孫には価値がわからない高級品。

回りにはドケチ。

色んな道楽に豪快に金を使って。

恥ずかしいと思っていた。

すぐ行方不明になる私が初めてバス通学をした時、下校時刻にロードバイクでバス停にいたね。

驚いた。

私の友達にもにこにこ手を振って。

誰やねんあのおじーさん、て友達も驚いていた。

私がバスに乗り込むとニコニコと手を振って。

私が下車して帰宅すると、なぜか汗だくで玄関にいたね。

旅先では誰かと親しげにしていて、どなたかと尋ねたら初対面の名前も知らん人って、言っていたね。

おかげさまですっかり旅好きで、多趣味になりました。

あなたの理想とは違う形かもしれないけれど、私もなんだかんだ人生を楽しんでいます。

ゆっくり休んでね。

土産話はできればあと50年くらい待って欲しい。

叔母へ

よく母親と喧嘩して、よく笑って、10代の私の前でも平気でギャン泣きしていた。

友達も多かった。

おっとりした見た目なのに、気がついたらスポーツしてる。

母親には直接言いづらいことをよく聞いてくれた。

いつも等身大の人だと思った。

あなたの運転する車の後部座席で眠るのが好きだった。

ありがとう。

義叔父へ

父親の昔馴染みの友達か、と思い込んでいた。

父親以上に冗談ばかり。

こっそりプリンを食べてごめんね。

口を開けばホラと軽口。

黙っていれば仕事が終わっている。

腰が弱くなったおばーちゃんも、さらっと黙って炎天下にしてくれている草むしりを感謝してた。

もっと周囲に、色々してやったと態度に出してもいいのに。

酒が飲めない血筋なのに、すっかりビール好きになってしまった。

やれやれ誰の影響なのやら。

おわりに

今日は妹の誕生日。

実家のことをふと思い出したら、ふと書きたくなった。

ただ、それだけのこと。

この全身は、俺の誇りだ。

それではまた。

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